『眠り姫の恋』Ⅱ

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『眠り姫の恋』Ⅱ






 その優子からの興奮気味の涙声を聞いたのは、小雨の続く八月の夜だった。


「万里江、大変! 大変よ!」


 長袖がちょうどいいほどの冷夏で、電話で呼び出されたわたしはパステルカラーのレインコートを羽織って、待ち合わせたファストフード店へと出向いた。


 街は若者や通勤通学帰りの人たちでごった返している。

 植えられた街路樹からは野性的な夏の香りが漂い、わたしはドキドキと胸をときめかせて歩いた。


 何かが起こった。

 何故なら、今はもう午後七時四十分を過ぎようとしていたからだ。


 店に入って彼女と向かい合うと、店員が横に来るのも構わず、優子はハンカチを片手に声を上げた。


「眠れない、眠れないのよう」


 目を真っ赤にさせて彼女はさめざめと泣き続けた。


「もう三日になるの。どうしても眠れないの。ああ、もう死んじゃいたい!」



 つまり話はこうだった。


 夜の早い眠り姫は朝も早く、家族に迷惑をかけないようにと、いつも午前六時には家を出る。そしてこのファストフード店で朝食を取り、それから時間を見計らって歩いて出社しているという。当然店には一番乗りで、早出の店員さんたちとも顔見知りになったらしい。

 ところが三日前、自分よりも先に店にいた男がいた。


 そして、それ以来、彼女は眠れないというのだ。


「一番乗りを奪われてプライド傷ついたとか」


「そうかしら。とにかくその人のことが忘れられないの。いつものように眠ろうとしてもその人の姿が頭から離れなくて……。手も足も融けないの。もう三日間ずっと」


 よほど悩んだのだろう、優子の顔は青ざめ、目の下にはクマが出来ている。


「それって、恋じゃないの」

「えっ」


 彼女は頬を染めた。間違いない。


「あんた、恋したのよ。一目ぼれよ」


 わたしは変人の友人が、ついに普通人になる日が来たのかと、安堵するような、寂しいような複雑な想いが込み上げてきた。

 眠り姫の眠りを覚ます男がついに現れたのだ。




 わたしは翌日、彼女とともにその男に会うことにした。


「それがね、その人、初めて会った気がしないの。絶対にどこかで会っていると思うの、ねえ万里江、万里江の家じゃないかしら。見れば分かると思うのよ、お願い」


 わたしの知り合いならなおさら、興味津々だ。


 どんな男なのだろう。

 まるで姫を守る騎士の気分だ。


 幼い頃から合気道や空手などの格闘技を身につけてきたわたしは、いよいよ本領発揮だと興奮した。


 本当に眠り姫の変態についていける男だろうか。




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『眠り姫の恋』Ⅲへ続く



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